目次
◎トレモロユニットのメリット・デメリット
◎調整の仕方
◎フローティング、ベタ付けそれぞれのメリット・デメリット◎アーム付きギターはチューニングが狂いやすい?
◎ストラトタイプの魅力
セットアップの一つとして今回はストラトキャスター(ストラト)タイプに搭載されている「シンクロナイズド・トレモロ・ユニット」(「トレモロ」)の調整について記述します。
ビブラートをかけられるユニットシステムにはビグスビー、モズライト ビブラミュート、フェンダー社のムスタングに搭載されたダイナミックビブラート、フェンダー社のジャガーやジャズマスターに、搭載されているフローティングトレモロ、ギブソン社のビブラートユニットなどがありそれぞれに特徴がありますが最も有名で手にする機会が多いのもシンクロナイズドトレモロだと思います。
◎トレモロユニットのメリット・デメリット
アームの付いたトレモロシステムがある事によりアーミングが出来ます。
アーミングとはペグを操作することなくユニットを使用して一時的に音程を上下させます。演奏中にこれを意図的に組み入れた演奏スタイルや名演も数多く存在します。
使い方としてはアームをネック方向に倒して音程を下げる「アームダウン」ボディエンド方向にブリッジを起こして音程を上げる「アームアップ」があります。
セッティングの仕方によって音程の上下幅が変わってきます。
またクリケット奏法と呼ばれるアームを叩いたり弾いたりして音を小刻みに揺らす奏があります。
演奏法上だけでなく、スプリングがある事による音響的な特徴もあります。
弦振動によってスプリングが共鳴して発生する振動により独特なサウンドになります。
後述するフローティング状態においては特に顕著になります。
ストラトタイプのこの点をデメリットと感じる人もいて、共鳴しないようにスプリングをスポンジなどでミュートしたりベタ着け(口述)にセッティングする場合もあります。
私はブリッジミュート時の残響が気になる為サウンドの変化を承知の上で硬質スポンジを入れています。
フェンダー社からアームを使わない人向けに「ハードテイル」というトレモロレスのないモデルも販売されています。
◎調整の仕方
●弦高調整などは済ませているものとします(過去記事)。
※交換時に弦を外し、裏ぶたを開けてスプリングを外した状態で動きが悪い時はユニットとボディを留めている6本のネジを減らすと良い場合があります。
●ボディの裏ぶたを開けます
弦交換では必要ありませんがトレモロユニットの調整時にはボディ裏の四角いプラスチックプレートを外します。
※この調整を頻繁に行う人は裏ぶたを外したままにする為中古では欠品になっている事が多いパーツです。
●スプリングハンガースクリューを締めてベタ付けにします
「ベタ付け」とはボディにトレモロユニットの底面のブリッジプレートがぴったりついた状態です。
この状態にするにはスプリングハンガーのネジを締めてブリッジプレートがボディに付くまで締めていきます。
スプリングハンガーとはスプリングが引っかかっていてボディにネジ止めされているパーツです。
セッティングの目的がベタ付けならばこれで調整は終了です。簡単に言えばアーミングプレイが限定される(ダウン方向のみ)代わりにチューニングの安定性や音のタイトさを得られる状態です。
この先の調整は、ハンガーの位置を前後させたりスプリングの本数や掛け方やスプリングの材質を変えて張力を調整していきます。
●好みのアーム可変幅になるまでハンガースクリューを緩めていきます
好みの幅と言われても最初は戸惑うと思いますので標準的と言われている「フローティング」状態にします。
ブリッジプレート(ユニットの底面パーツ)が約3mmほど浮く状態にします。
手順はハンガースクリューを少し緩めチューニングをする→プレートの浮きが少なければまたハンガースクリューを緩めてチューニング、を繰り返します。
いちいちチューニングをするのはハンガースクリューを緩めると弦にかかるテンションが下がり音程が下がるからです。きちんとチューニングできた状態でブリッジがフローティングしていないと意味がありません。
約3mmほどプレートが浮いた状態でチューニングが安定したらフローティング調整は完了となります。
この状態を基準によりアームアップさせたい場合はスクリューを緩めてブリッジプレートの浮き幅を多くします。
アームアップ幅を多くとる場合は、アームアップ時に弦高が下がるのでそれを見越して弦高を上げておかないとフレットに当たり音が途切れてしまいます。
スプリングにより音色は変わると言われておりこだわる人は材質などにこだわります。
実際にリプレイスメントパーツとして様々な種類の材質、張力の強弱、製造法の違うスプリングが販売されていますので興味がある人は検討されると良いでしょう。
またフロイドローズの様にアームを固定する機構が無いため取り付け部にゴム状のリングが封入されているものもあります。
アームの取り付け前に挿入するアームテンションスプリングという固いバネ状の商品もあります。
また今回は触れませんがブリッジの下にある金属の 「トレモロ ブロック」(サステインブロック、イナーシャブロックとも言います)の質量や材質を変更することでも音質が変わります。
◎フローティング、ベタ付けそれぞれのメリット・デメリット
●フローティングのメリット
◯アーミングがアップ、ダウン共に可能
アーム付きのギターの醍醐味を味わえます。
◯演奏がスムーズ
テンションが適度なのでアーミングやチョーキングがスムーズに感じます。
◯独特の残響がある
スプリングの共振により、アンプを通してまた音を歪(ひず)ませていてもはっきりわかる音色が楽しめます。
またそれを前提とした音作りができます。
●フローティングのデメリット
◯弦切れに弱い
絶妙なテンションバランスを保っている為、弦が切れてバランスを崩すと全てのチューニングが狂います。
ただしこれはそういうものとしてプロはサブギターに持ち換えるなどで対応します。ビギナーがギター1本でライブなどをする場合はかなりのデメリットと言えます。
◯チューニングが安定しにくい
◯弦交換時に微調整が必要
●ベタ付けのメリット
◯チューニングが安定する
ブリッジが固定された状態なのでチューニングが狂いにくい
◯弦が切れても他の弦は狂わない
フローティング時のデメリットをなくした状態です。
◯アームダウンしかできない
アップ方向には固定された状態なのでアームプレイは限定されます。
◯弦のテンション感が強く感じる
若干テンション感が強まりフローティング状態と比べると弾きにくく感じる場合もあります。
◎アーム付きギターはチューニングが狂いやすい?
アームユニットはどうしても可動部が多い為チューニング精度ではデメリットが多くなります。
しかしアーミングが契機になっていても調弦の狂いの原因は他の箇所にある事もあります。
●狂う原因
アームユニット自体は「◎調整の仕方」の項で述べました様にブリッジの動きがスムーズになる様にボディへの取り付けネジを調整してください。
アーム付きギターに限らずチョーキングなどでチューニングが狂う原因には以下のものがあります。
◯ペグの精度
ペグ自体の工作精度、取り付け精度が悪いことにより弦が安定していない状態です。
◯ペグポストへの巻き方
巻き方がまばらだったり巻き数が多すぎる、少なすぎる場合も安定しません。
適正はペグポストの長さや目的のテンションによりますが2-3巻きです。
理由はアーミングやチョーキングで弦のテンションが変わった時、極端に言いますと弦がポストから緩んだり締まったりします。
その際に巻き方が適正でないと元の状態に復帰しなかったり、復帰に時間がかかったり、少し時間が経ってからいきなり復帰したり、徐々に復帰したりするからです。
◯各部の摩擦係数がまちまち
各部とは
・ブリッジのサドルの弦が触れる部分
・ナット
・ストリングガイド(ストリングリテイナーとも)
で それぞれのどこかあるいは複数の、弦が触れている部分の滑りが悪い事で音程が安定しなくなります。
ペグポストへの巻き方で述べた様にここでも弦が引っかかり元の状態への復帰がランダムになるからです。
これを避ける目的で作られたものがマグナムロックなどのロックペグです。
弦交換時の手間が少ないのもメリットですが、よく間違えられますがロック式のフロイドローズ(FRT)システムとは違います。
FRTはナットとブリッジを完全に固定して滑り自体を無くしている為ペグポストの巻き方はチューニングに一切影響しません。
特にナットは弦が乗っているだけに見えますが弦のテンションやチューニングに関わり高い精度の要求されるとても重要なパーツです。
交換や弦溝切りは素人作業でも見た目に違いは解りませんが必ずプロに依頼することをお勧めします。
ストリングガイドは伝統的なカモメ型は摩擦が大きいのでローラー型に交換すると摩擦はかなり減ります。
パーツ代も安く、取り付け失敗のリスクも低く(と言うかほぼ無いでしょう)、また交換しても本体の加工など傷つけることもなく元のパーツを無くさなければいつでも戻せますのでお勧めです。
なおストリングガイドはナットに適正なテンションを与えるためのパーツですので弦交換時にめんどくさいからといってガイドを使わないで弦を張ったりガイドを外して捨ててはいけません。
既に捨ててしまった人はア◯◯◯で安いローラー型を購入しましょう。
ブリッジは弦が乗る部分にグリスアップするのが簡単ですが長期間弾いているとブリッジサドルに弦の溝が出来てしまい抵抗になっている場合があります。
その場合はナット程は高精度を求められませんのでヤスリで整形し、弦が乗る部分が滑らかになる様に加工してみてください。
ただしストラトタイプはサドルがブリッジプレートと一緒に動きますので影響は少ないと言われています。
◯余談ですがテールピースとブリッジのサドルの距離がある機種もチューニングの安定性では不利に働きます。
ストラトの場合はテールピースに当たるブリッジプレートとサドルの距離が極端に近いのであまり影響しません。
◎ストラトタイプの魅力
ストラトタイプはベタ付けであっても固定ブリッジとは違う独特の音色が魅力です。
またストラトに限らずフェンダー系のギターはレスポールなどの機種に比べてパーツを変えたり、本来素人が触れるべきではないのかもしれませんがネックの仕込み角度を変えたり、他にも改造する余地が多く複数のギターからパーツを寄せ集めたコンポーネントギターを作るなど「パーツ」「カスタム」と男心をくすぐる文句が多いギターです。
ゆくゆくはサーキットの改造なども行っていくと楽しみはさらに増していくと思います。
完
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