ギターの保守やメンテナンスについて調べていると「ラッカー塗装か否か」という問題にぶつかります。
ギターの塗装は何種類かあるのですが「ラッカーかそれ以外の塗装法か」はたびたび問題とされる場面が多いと思います。
今回はラッカー塗装についてお話ししていきたいと思います。
目次
◎ラッカー塗装とは
◎ラッカー塗装は音が良い?
◎ラッカー塗装の保守・手入れ
◎ラッカー塗装とは
ラッカー塗装には色々な種類がありますがギターで用いられているのはニトロセルロースラッカーと呼ばれるものです。
1923年からの自動車産業に用いられその後家具や楽器など木製品に用いられました。
●楽器の塗装の目的
ギターに限らず塗装の目的は本体の保護と美観です。
ギターは木材で出来ているボディやネック全体が振動してそのギター固有の音を発しているため塗膜が厚いと振動を妨げるとされています。
そのため塗装は薄いほど良いと言われています。
また塗膜もボディの一部なため、塗膜の硬さも音色に影響します。
塗膜が軟らかいと楽器の振動を妨げこもった音になります。
●ラッカーの塗装法
ラッカー塗装は塗料に揮発性の高い有機溶剤を混ぜてスプレー等で吹き付け着色します。
その後溶剤が気化していき残ったラッカーが硬化することで塗装膜を形成します。
塗料成分だけが残りますので乾燥するほど薄くなっていきます。
同じ厚みで塗装をしてもしても他の塗装より後々はラッカー塗装の方が薄くなります。
楽器が完成した後もゆっくりとラッカーの経年変化が進み塗膜が硬くなっていきます。
●ラッカー塗装のコスト
ラッカー塗装は安価な塗装技術が発明された現代ではコストのかかる塗装法です。
理由としては溶剤の揮発に時間がかかることです。
プラモデルを塗装したことがある人はご経験があるかと思いますが一度に厚く塗ると溶剤が抜けきれずに硬化不良を起こしやすくなります。 また厚塗りをすると液だれも起こしやすくなるため薄く塗って時間をかけて乾かしてまた薄く塗る…と目的の厚さに塗るまで非常に手間がかかります。
湿度のコントロールができない状況では乾燥だけでなく塗装面の状態にも悪影響が出ることもあります。
このように重ね塗りが必須な点は塗膜の厚さを細かくコントロールできるメリットがある反面、手間がかかり(人件費)、時間がかかる(保管コスト)デメリットがあります。
そのため高級なギター・ベースにしか使われない塗装方法であり「ビンテージ」と呼ばれるエレキギターはこの塗装が主流です。
エントリークラスのギターではポリエステル塗装(ポリウレタンも)が主に使われます。
●ラッカー塗装の変化
年月を経ると共に塗膜が薄く、硬くなるとともに「やせ」と呼ばれる現象が起きる場合もあります。
完成時は平面に磨いてあっても木目が浮き出るように塗装面に凹凸が浮き出るものもあります。
また硬度が増すことによって傷に強くなる反面柔軟性は失われていきます。
気温や湿度により本体の木材と塗装が収縮し、収縮率の違いにより塗装面に細かいひび割れが起きることがあります。
これは「ウェザーチェック」と呼ばれラッカー塗装にしか現れない、「ラッカー塗装の証」と好意的に受け取られることが多いです。
新品のピカピカなギターが好きな人にはデメリットですがウェザーチェックは避けられない(必ず出るわけではない)ということもあり余程そのギターが好きで余程ピカピカでないと耐えられないという人以外はそのまま使用することになります。
その見た目を良いと感じ、ポリ塗装のギターに人工的にウェザーチェックを作ることを試みている人もいます。
ウェザーチェックは「ラッカー塗装だけの」「塗装面のみのひび割れ」なので木部まで割れている「クラック」とは別物であり、クラックの方はギターの値打ちをほとんどの場合下げるでしょう。
◎ラッカー塗装は音が良い?
一般的には音が良いとされています。
しかし全く同じ個体を用意することは木材一つとっても不可能であり同じ個体をラッカー、ポリエステル、オイルフィニッシュと塗り替えて聴き比べられない以上わからないとしか言えないと個人的には思います。
塗装を剥がしてリフィニッシュする実験などもありますが録音でしか聴き比べられないので厳密な比較は不可能だと思います。
長年ラッカー塗装のギターを弾いている人は「確実に音が良い方向に変わる」という人がいます。
しかし前述したようにラッカー塗装を採用されている楽器自体が高価なものが多いためラッカー塗装のみがその良好な変化の要因かは断定しかねます。
あくまで個人の意見で、私個人は保守のめんどくささからラッカー塗装のギターは必要最低限しか(ギブソン3本)所有していませんし話半分でのご視聴をお願い致します。
塗膜が軟らかく厚いとボディの振動は弱まりやすく硬く薄いと弱くなりにくいので「●ラッカーの塗装法」で述べましたように経年変化で硬く薄くなるラッカー塗装は「鳴りが良い」と言われ音響的に有利とする意見があるのも事実です。
◎ラッカー塗装の保守・手入れ
●化学物質による塗装の溶解最も多く語られ最も注意すべきことはこれに尽きます。
知らずにギタースタンドに放置したであろうネックの裏にスタンドの跡の塗装溶けが起こっている中古ギターを本当によく見ます。
ラッカー塗装はデリケートでゴムや石油製品、オイルなどに反応して塗面が溶ける事があります。
もっとも有名なのがギタースタンドで、専用のカバーも販売されています。
マジックインキや除光液、ジッポオイル、ホワイトガソリン、アロマオイル、香水なども塗装を溶かしネック裏以外では演奏面では問題ないとはいえ外観と所有者の心にクリティカルなダメージを与えます。
意外な盲点はTシャツのプリントにも反応し、特に夏場の暑い日に弾いていて体からギターを離すときにプリント柄にギターの背面がくっついている場合があります。
溶ける以外にも若い(製造間もない)ギターは塗膜が軟らかくなりやすく、ギターケースの内張りの跡が付くことがあります。
専用ケースといえども、何かに塗装面を触れさせたまま長期間放置するのは危険な行為と言わざるを得ません。
また汗にも反応しやすく、暑い日に弾くとネック裏やボディの右ひじが当たる部分の艶が失われていたりします。
この艶の問題は気にしないか研磨力の強すぎないポリッシュなどで磨くしかありませんが確実に塗膜を薄くします。
●拭き掃除
ラッカー塗装に限らずギターは弾いたあとは乾拭きだけでもした方が良いです。
弾く前に手を洗うこともとても大切です。
手汗や手指の脂分が付いたままにするとラッカー塗装のギターはてきめんに塗装面が荒れます。
具体的には艶と光沢が失われネック裏などは滑りが悪く演奏にも影響を及ぼします。 塗装面だけでなく、金属パーツのくすみや錆の原因になります。
汚れがひどい場合や年数が経った場合はポリッシュの使用も効果的ですが必ず
◦ラッカー対応か確認する
◦いきなり吹きかけずクロスに吹きかけてから拭く
◦目立たない場所で試してから使う
を守ってください。
そして余分なポリッシュが残らない様にきれいなクロスで拭き取って下さい。
また家具用や自動車用のポリシュは丈夫なポリ塗装には安価で効果的ですが、成分によってはラッカー塗装を溶かす場合があるため厳禁です。
研磨剤を含んだポリッシュも研磨力の非常に強いものがあり塗膜を必要以上に削る場合があるため経験を積むまでは使用は控えた方が良いです。
●ウェザーチェック
ひび割れなどない、新品の様なピカピカが好きな人にはお気の毒ですがラッカー塗装のウェザーチェックを確実に防ぐ方法はありません。
またどのような方向、範囲で入るかも全く予想できずコントロールもできません。
ただし確実に塗装の割れを促進させる行為を控える、という選択肢はあります。
先述の様に気温と湿度での塗装と木材の収縮率の違いが主な原因ですので
◦高湿度・高温の場所に置かない
◦極端な低湿度・低温の場所に置かない
◦それらの場所を短時間で行き来させない
事が予防になります。
これを守っても確実にウェザーチェックを防げる訳ではありませんが注意すべきポイントではあります。
冬場の車内から、暖房の効いた部屋に持ち込みいきなりケースから出すなどのも危険な行為です。
しばらく中間的な環境で慣らしてから移動させるようにします。
また湿度は塗装面のべたつきの原因となることもあります。
●バックル傷
ベルトのバックルもすぐわかる傷だけでなく徐々にダメージを与えます。
ビンテージギターではボディ裏が大きく塗装の剥がれが起きたものが多くあります。
バックル傷に限らず傷や痛みは、憧れの楽器と同じルックスに近づく、使い込んだ楽器という風格を醸す、という観点から歓迎される場合も多いのが面白いところです。
●日光
ギターを直射日光に晒すことは変色や退色の原因となります。
ビンテージのチェリーサンバーストが示す様に赤系の色がもっとも速く褪色しやすくなります。
ラッカーは日光に限らず光全般に焼けて色が飴色に近づいていく性質があります。
◎まとめ
以上見てきましたようにラッカー塗装は魅力的な面も多い反面保守の手間のかかるデリケートな塗装です。
しかしほとんどは高額なギターに採用されているため保守の手間はそれほど苦痛には感じないものです。
ポリウレタン塗装とラッカー塗装を見分けることは困難です。
中古購入などの場合は特に良く調べ、疑わしい場合はラッカー対応で臨む方が良いかと思います。
完
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