前回(40)は指板の周辺のポジションマークやインレイ、バインディング、R(アール)についてお話ししました。
今回は代表的な指板材についてです。
◎ローズウッド
●特徴
メイプルと並んで最も一般的な指板材です。日本語では紫檀(=したん)と呼ばれます。
メイプルの白っぽい色に対して黒に近い茶色~明るい赤茶色と色味には個体差が大きい木材です。
指板材は強度と耐摩耗性が求められるためある程度以上の硬度が求められますが木材全体の中でも硬い部類に入る木です。
害虫に強く朽ちず長持ちする為古くから家具などに用いられてきました。
ボディにも稀に用いられますが重く加工性にも難があるため一般的ではありません。
薔薇の木の仲間ではありませんが薔薇のような香りがすることからこの名がついたとされています。
手触りは導管が多い見た目同様でこぼこした手触りです。しかしもともと脂が多い木材ですので手入れを怠り放置しすぎなければ比較的滑らかな手触りです。
なめらかでかつ凹凸があるので弦を安定して押さえることができます。
個人的には手入れがきちんとなされていれば滑らかさと適度なさらさら感が同居する一番弾きやすい指板材だと思います。
●音質傾向
他の指板材に比べマイルドでウォーム、アタックも緩やかで中域よりの傾向があります。
メイプルに比べ控えめな高音域になります。
●手入れ
基本的に装飾的に塗装したギター以外では無塗装で用いられ色も濃く導管も多めで凹凸が多いため汚れも目立ちにくい材です。
放置しすぎて油分が無くなると白っぽくざらざらした手触りになります。
オイルの塗布は推奨されていますが保湿と余分な吸湿を防ぐ為と油の親和性を利用した手指油の除去の意味もあります。
一般的に推奨されているレモンオイルやオレンジオイルは、個人的にはお勧めしません(過去記事5.指板の保湿)。
オイルであればオリーブオイルなどでも良いという人もいて長年使用しても問題ない様です。
個人的にはオリーブオイルはヨウ素価100以下の不乾性油ですので不乾性油が悪いということではありませんが好みで乾性油のえごま油(=エノ油)を使っています。
こちらも十数年使用していますが全く問題ありません。
メンテナンス方法も別記事で紹介していますが(4.指板の掃除)クロスに染み込ませ少量なじませて乾拭きで完了です。
●その他
前述のように脂が多いことは手触りの滑らかさだけでなくフレットの打ち込みの難易度が低いという利点もあるため、フレット交換(=リフレット)の工賃が他の木材に比べてリーズナブルです。
またネック全辺に及ぶ硬度の高い木材という位置づけは音響だけでなく反りからネックを守る一助となります。
そのためメイプルの一本木よりも反りにくい傾向があります。
一般的な指板材として長年用いられてきたローズウッドですが規制の対象になったニュースは記憶に新しいと思います。
最高級のハカランダ(=ブラジリアンローズウッド)をはじめ希少価値の高いマダカスカルローズウッドやホンジュラスローズウッドだけでなくインディアンローズウッドまで規制対象になりかけ、代替材の使用が加速度的に多くなりました。
結果的には楽器に使用する総量が少ないという理由で既製楽器の移動に関しては規制の手が弛められたのですが今後規制強化の方向に向かっていくことは避けられないと思います。
◎メイプル
●特徴
加工性が良く狂いも少ないためフェンダー社によるネック材への採用から一般的なネック材となりました。
指板、ネックともにメイプルのオールメイプルネックにも指板・ヘッドまで含めた全部を一本の木材から採るワンピースネックと指板材に改めてメイプルを貼る通称「貼りメイプル(ネック)」があります。
つるつるのグロス塗装の他艶無しのマット、さらさらな手触りのサテン仕上げなどがありますが基本的に塗装されて製品化されています。
導管を感じにくく非常に滑らかなうえ塗装仕上げをされていますので演奏性は非常にスムーズです。
ただし手汗をかきやすく手汗が多い人は逆に滑りが悪くなり弾きにくく感じる場合もあります。
慣れればスライドなどの滑りを伴うテクニックがやりやすいためメイプル指板をセレクトするギタリストもいます。
●音質傾向
アタックが強くはっきりとした音像が得られる事が特徴です。
高域成分にすぐれ倍音も多い傾向があります。
●手入れ
ほとんど塗装されていることが多いため基本的にはクロスでの乾拭き程度で問題ありません。
ラッカー塗装の場合はラッカーの変色に伴い白色の木が飴色に変わっていきます。
そしてボディと同様によく手の触れる部分から塗装が剥げていき剥た部分から白木のメイプルは黒っぽく汚れてきます。
再塗装することも可能なのですがヴィンテージギターの様に塗装が剥げた様子を好む人も多くいます。
よく使う部分の塗装が剥げて汚れていくことから自分だけの色合いになっていくので自分だけのヴィンテージギターとしてより愛着が湧いてきます。
無塗装やオイルフィニッシュのメイプル指板はさらに汚れが付きやすいです。
しかしこれも良く弾いて触る部分がより汚れていきますので自分だけの味わいとなっていきます。
●その他
硬度が高くネックや指板としては優秀ですが硬い分脆い傾向がありフレット交換は旧フレットを抜く作業でめくれやすく工賃が高くなります。
基本的に塗装仕上げなのも、工賃を上げる一因となっています。
余談ですがメイプルは硬質な音響特性からボディ材にも用いられますが重く硬いためマホガニーとラミネート(=プライ)されて用いられます。
総メイプルのギター/ベースも存在しますが機種は多くありません。
硬いハードメイプルのほか比較的柔らかめのソフトメイプルがあり木目と別に成長の度合いで現われる「杢」が出やすい木材です。
そのためレスポールのトップ材などのように音響効果を狙った厚貼りのほか化粧板のように薄く貼られる場合もあり、それを模したメイプル杢風プリントをされたギターもあります。
◎エボニー
●特徴
日本語では「黒檀(こくたん)」といい仏壇の材料として有名です。
大変固いため建材などのほかヴァイオリンなど他の弦楽器の指板にも用いられピアノの黒鍵やチェスの駒などに用いられます。
漆黒の木材で水に沈む程に目が詰まっていて重くまた硬く、磨くと金属のような光沢がでます。
生育がとても遅いため目が詰まっていますが使える太さになるまで時間がかかり加工性の難易度も高いため高額です。
硬質ではありますが滑らかでスムーズなフィンガリングで希少性だけでなく演奏上の特性からも人気が高く上級機種にのみ採用されています。
材の希少性から以前は使用されなかった周辺材や、マカッサルエボニー(=カリマンタンエボニー、縞黒檀) などの種類も使用されるようになっていて事情を知らなかったり近親種を見たことがないとエボニーだとわからないものもあります。
●音質傾向
他の指板材よりもアタックが強く硬質な為指板だけの音響特性を見ればサステインは長めです。
音像はメイプル同様はっきりしていますが高音成分だけでなくバランスの良い出音が特徴です。
●手入れ
硬さゆえ乾燥すると粘りがなく割れにつながりやすい
傾向があります。
導管が見えにくくオイル塗布の効果は見えにくいですが少なくとも乾燥しやすい冬季前にはオイルでの手入れを行いましょう。
また硬度が高く目が詰まり導管が見えにくいスムーズな外観の為汚れが目立ちやすいため指板の清掃の頻度も高くなります。
●その他
エボニーと言えば漆黒の高級感あふれるルックスも魅力の一つだったのですが近年の木材全般の高騰化により本体用いられなかった辺材や亜種も積極的に用いられるようになりました。
エボニーでも色ムラのある辺材や亜種は着色されて使用されることが有ります。
エボニーは規制前から高級材だった為古くは80年代ごろの国産ギターでも代替材は用いられてきました。
またエボニーがデフォルトのレスポールカスタムのコピーモデルはローズに黒い着色を行って商品化されることは往々にしてあります。
多くは導管で見分けられましたが近年の代替材の一部は知らないと見分けがつかないものもあり中古で機種で型番不明なもの以外は心配な場合は検索してよく調べる必要があります。
硬く脆い点ではメイプル以上なので、フレット交換の工賃はさら高額になります。
42.に続きます。
コメント