44.エレキギター ◎ サーモウッド

◎はじめに

ギターの世界では指板材の最もポピュラーな材だったローズウッドの規制により、サーモウッドの一種であるローステッドメイプルが代替材としてアナウンスされた印象があります。

しかし実態は代替材として開発された下位互換品ではなく様々に優れた特徴と実績を持つ材です。

◎サーモウッドとは

植林材を用い酸素の無い状態で燃焼を防ぎつつ窒素ガスなどを利用して200前後の高熱での熱分解処理をした木材です。

フィンランドでサウナ向けに開発されたと言われているようですが水分含有率が3~7%まで減る為収縮が少なく寸法が安定しているので、屋外のウッドデッキや風呂場の建材、デッキやチェアーなどの家具に用いられています。

木に似せて樹脂や紙などで作られた人工材は耐久性に優れ「朽ちる」ということがありません。

対してサーモウッドは薬品や人工物を用いない天然木ではありますが耐久性に優れた木材です。

処理の結果材の色身は芯まで均一な暗褐色になり処理温度により安定性や耐久性に製品上の差異があるようです。

◎サーモウッドのメリット

木材としての様々な利点がありますがギターの関係した長所は以下の通りです。

●寸法の安定性

木材は伐採後にシーズニングと呼ばれる含水率の調整をしたのち木材として流通製品(ギター)として加工されます。

加工後も木材は「呼吸する」と言われ湿度が高いときは吸湿して膨張し、湿度が低くなると水分を放出して収縮します。

これが木部の部位によって収縮率が異なる結果、「反り」「割れ」が起き、割れないまでも湿度が変わるとネックが動き半音程度はチューニングが変わったり特定のポジションでビレが発生したりすることがあります。

湿気から木材を保護するために塗装がなされますがシーズニングが不十分だと経年変化で内部の水分量が変化しネックの反りや指板材の割れなどにつながります。

サーモウッドは高熱で処理されている為含水率の変化による寸法の変化がほとんどないため安定した木材として特にネック材としてのメリットがあります。

また含水率が低いのでヴィンテージギターのように良く響くとされています。

●軽量

木材が元々持っている樹脂(ヤニ)が除去されるため軽量になります。

ギターのネック材として用いられる場合はヘッド落ちを回避する事になります。

ヘッド落ちとは設計上バランスが悪い場合やヘッドのパーツが重い、そしてネック材が重い場合に構えた状態でヘッド側が下がってくる現象です。

デフォルトでそういうバランスの楽器も存在し愛用者はその欠点も踏まえて使用するのですが意図せず起こったネック落ちに関してはネガティブな要素となります。

軽量であるということは木の鳴りの面だけでなくヘッド落ちの可能性からも製品を遠ざけます。

ギター製作者にとって軽量さは製品の組み立てやすさにもなりまたヤニが除去された状態は塗装の容易さももたらします。

●材の状態・色身が均一

木材の芯まで加熱処理をされている為表面のみならず加工断面まで同一の茶褐色になります。

加熱時間でさらに濃くなりますが色味が均一なことは製品化に際し材をセレクトする手間がひとつ減ることになります。

高級なギターだと材の色味までセレクトされている事がうかがえる材のマッチングがなされますが中級機以下のギターだとナチュラル(木目が見える)仕上げなのにも関わらずプライボディの色が違っていることが多々あります。

なのでこの点は個人的に結構メリットだと思います。

そもそも植林材を用いている点と相まって材を無駄なく利用できる点は地球環境的にも積極的に利用したい技術です。

●断熱性

ギターにはあまり恩恵の無い利点ではありますが断熱性能の高さは建材としてのメリットがあります。

◎サーモウッドのデメリット

●裏面に反りが出る

一般的な木材は木表、木裏ともに反る可能性がありますが表側に反ることが多くまた薄い材では塗装面側に反りますがサーモウッドは裏面が反る特徴があります。

●変色の可能性がある

長期にわたり日光など紫外線を浴びるとブラウンから灰色に変色するという記述が多くみられます。

しかしギターを長期間日光にさらす事は考えにくいですし、灰色への変色は人によってはネガティブな変化ではない場合があります。

◎具体的な使用材

●ローステッドメイプル(Roasted Maple)

メイプル(楓)材を無酸素で加熱・乾燥させた材です。

安定性や鳴りの面からネック材として使用されていますが熱処理による色の変化の結果、杢目がはっきりして強調されます。

杢の出にくいハードメイプルにソフトメイプルのような杢を出現させる事があり利用上の利点となっています。

●エステックウッド(S-TECH WOOD)

「窒素加熱処理」という特殊な処理によって加工された木材です。

「S-TECH WOOD」は「Sendai Technologies Wood」の略で宮城県の仙台で開発された特許技術「窒素加熱処理=エステック処理」を用い加工されたサーモウッドです。

木材を専用の処理装置に入れ窒素ガスを使用し180〜220℃で加熱することで作られます。

こちらも反り耐性の高さや音響面・重量面での利点からネック材として使用されています。

◎最後に

ギターに関してはメイプル材やアッシュ材が主なサーモウッドですが楽器として音響面、製造面、素材調達面のメリットがあるだけでなく、環境面でも利点が多い材として今後も活用の幅を広がっていくと思います。

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